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娘すーたんと過ごす日々の中の些細な出来事を綴って いきたいと思います。
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2、3年前に書いた小説をUPしてもいいですか~?

コンテストに出したけど、一次にも引っ掛からなかったから(^_^.)

まぁ、人生そんなに甘くはないわね~。

でも、諦めないわ(^・^)

「大切なのはどんな選択をするかじゃない。
自分が選択した人生を強く生きられるかどうか。
ただそれだけだ!」(ドラマ:サバイバルウエディングから)

なのだ~





タイトル「温もりが欲しくて」

岡田は、久しぶりの休みに、妻と近所を散歩することにした。ゆったりと散歩をすることが胎教にいいこと位は、仕事一筋の岡田でも知っている。結婚10年目にして授かった命。岡田はもちろん嬉しかったが、妻の喜び様は想像以上だった。妊娠が分かるや否や、妻が購入した物でリビングの床がみるみるうちに埋め尽くされていった。ベビーグッズはもちろん、胎教に良いと言われる物は片っ端から購入しているのではないかと疑う程だ。結婚してから子供のことを一度も口にしたことのなかった妻が、本当はそれほどまでに子供を望んでいたことに、岡田は少なからず驚いていた。

ゆっくりと歩きながら、咲き始めた桜を見上げると、ぷっくりと膨らんだ蕾をつけた枝が重なり合う向こう側に、真っ青な空が見えた。ふんわりと肌に触れる風が心地良く、岡田は凝り固まった全身がほぐれていくように感じた。季節を感じるのはどれ位ぶりだろう。

昼夜問わず働く生活になってから、20年が過ぎようとしている。妻のための散歩のつもりが、いつの間にか岡田自身が散歩を楽しんでいた。

(すみれ)もいいけど、(なずな)もやっぱり可愛いわね。」

道沿いに咲く花のことを言っているのだろうが、どの花のことか岡田にはさっぱり分からなかった。
「どう思う。」と、岡田の腕を妻が軽く引っ張った。「どう思うって言われても、俺にはどの花がスミレやナズナか分からないし。」と岡田が答えると、「子供の名前よ。」と、妻は笑った。「女の子かどうか分からないだろ。」と、岡田が妻を見ると、「女の子のような気がするのよね。」と妻が微笑んだ。

家から10分程歩いたところにある児童公園のベンチに二人は腰を掛けた。妻が用意した水筒に入ったルイボスティーを飲みながら、岡田は公園全体を見渡した。幼い子供が遊ぶにはちょうどいい広さの公園だと思った。あと1週間もすれば、公園の周辺に植えられた桜が満開になり、お弁当を持った親子連れで賑わうことだろう。

横にいる妻を見ると、目を細め、笑みを浮かべながら、公園の真ん中にある象の形をした滑り台を見ていた。滑り台で遊ぶ我が子を想像しているのかもしれないと岡田は思った。

二人の間には会話はなかったが、緩やかに流れる時間が心地良かった。お茶を飲み干し水筒に蓋をすると、岡田は公園の隅にある公衆トイレへ行った。用を足した後、洗面台で手を洗い終わると、猫の鳴くような声が聞こえた。鳴き声は隣の女子トイレから聞こえているようだった。猫の鳴き声だろうと思いながら、岡田はベンチに戻ってからもなぜか気になって仕方なかった。

「なあ、女子トイレを見てきてくれないか。」と岡田は隣に座る妻に言った。

「鳴き声が女子トイレから聞こえたんだ。猫だとは思うんだけど。」

「職業病ね。」と妻はベンチを立った。岡田も妻について歩き、公衆トイレの前で待つことにした。トイレは静まり返っていて、妻がトイレの扉を開く音しか聞こえなかった。やっぱりさっきの鳴き声は、トイレに迷い込んだ猫なのだろう。妻の言う通り職業病だなと、一人苦笑いを浮かべた時、2回目の扉の開く音に続いて、妻の叫ぶ声が聞こえた。

「あなた来て。早く。」

岡田は妻の叫び声がした瞬間、女子トイレに駆け込んだ。そこには、長いへその緒をぶらさげた裸の赤ん坊を抱えて立ち尽くしている妻の姿があった。 

 

駅に直結している大型ショッピングモールのトイレで私服に着替え終わると、菫はいつものようにゆっくりと歩き始めた。ショッピングモールを出て、10分も歩かない内に、街並みがガラリと変わって、胡散臭さが漂い始めると、菫は途端に落ち着かなくなる。

サンドイッチマンや呼び込みの茶髪の男、やたらと露出度の高い服を着た女達の存在に慣れることはなく、道の両サイドに立つ彼らの姿を目の端で感じながら、まっすぐ前を向いて歩き続ける。

落書きがあちこちに書かれている薄汚れたビルの壁に、『時給3000円、勤務時間応相談』という見慣れた貼り紙をみつけた途端、緊張が僅かにほぐれると共に、溜息がこぼれた。

「あんた、働きたいの?」

突然、頭の上から降ってきた声に驚いて、菫は小さな悲鳴を上げてしまった。反射的に声のした頭上を見上げると、髭面の冴えない40代位のおやじが菫を覗き込むように見下ろしていた。全神経を後ろに立つ男に集中させながらも、無言のまま、視線を貼り紙に戻した。

「その店はやめといた方がいいよ。いい噂は聞かない。」

とまた、頭上から声が聞こえた。後ろに立つ見知らぬ男から離れるため、求人の紙が貼られたビルの中へと続く階段に菫が足を掛けた瞬間、左腕を掴まれて、後ろへ引っ張られた。

「死にたいの?」

左の耳元で、男の静かな声がした途端、鼓動が体中に響き渡る程激しく打ち始めた。

「腕、痛いんだけど。」

声が上擦りそうな気がして、下を向きながらつぶやいた菫の声が聞こえなかったのか、男は菫の腕を強く掴んだまま、貼り紙のビルの向いに建つビルへと歩き出した。菫は抵抗しようにも体に力が入らず、引きずられるようにして、男についていった。

 

クラシックのBGMをかき消す程、セーラー服、メイド服、白衣、パジャマ、いろんな格好をした女の子達の笑い声が店内に渦巻いている。

さっきから隣でマコちゃんと呼び続けている男の声が一段と大きくなった。そのマコちゃんが自分のことだと思い出して、菫は仕方なく隣に座る男を見た。

男の鼻の頭には、じんわりと汗の玉が浮かんでいる。安っぽくテカッているスーツから擦り切れた合皮の靴と視線を下に移動させながら、こいつも絶対社長じゃないなと、もう一度男の顔を見直すと、どう見繕っても冴えない営業マンにしか見えない自称社長男が嬉しそうにニヤついた。笑うなおっさんと、菫は心の中で毒づいた。

向こうのテーブルに座っている白髪頭のおじいちゃんは、年金暮らしだと言っていたっけ。入口近くの席にいる男は、働いている様子のない30代のおたく男。店にはいろんな種類の男がやって来るけれど、みんな隣に座る女の子が発する見え透いたお世辞を真に受けて、鼻の下をのばしている。

本当にマヌケだと菫はうんざりした。こんなやつらが会社では常識のある社会人として働き、家に帰っては子供にお説教をしているのかと思うと、この世の中全体がとっても陳腐なものに思えてしまう。大人というのは、見た目が老けているだけで、内面は子供と一緒。いや、いろんな経験を積んで悪知恵が働く分、子供よりタチが悪い。そんな事を考えていると、

「眉間に皺がよっているよ。何か嫌な事でもあったのかな?おじさんが相談に乗ってあげるよ。」

と働かずに親の年金で暮らしている40代の常連のおやじが、にやけた顔で話しかけてきた。心の中で、人の事より自分の人生について誰かに相談しなと悪態をつきながら、無理に笑おうとすると、頬が痙攣したかのようにピクついた。その時、店のボーイが菫を呼んだ。ボーイの後ろをついて歩いていくと、40代後半位のスーツを着た男の席へと案内された。

初めて見る客だった。午後4時40分に菫が席に着いてから約1時間、男は会社がいかに不条理なとこか、上司がどれだけ嫌なやつか、延々愚痴を言い続けている。仕事中にこんな店に来ている時点であんたは会社のことも上司のことも悪く言える立場じゃないんだよっていう本心を隠して、「お仕事大変なんですね。」と、心にもない事を言いながら、菫は愛想笑いを浮かべた。

男は一瞬満足そうに頷いたかと思うと、たばこの煙を吐き出し、誰かに見せるのが目的かのように、大げさに辛そうな顔を作った。小学校六年生の娘が、最近全然口を聞いてくれない、それどころか、汚いものを見るかのような目で時々自分を見るのが辛いと言うこの愚痴男のリクエストで、菫はブレザータイプの学生服の衣装から、一番嫌いなピンクのパジャマに着替えた。

レースが施された胸のあたりから首筋へ、足のつけ根から足首へと男はねっとりとした視線をよこしながら、恍惚の表情を浮かべる。

本当の娘と話しが出来ないのでここに来て、娘が家でしそうな格好を私たちにさせて寂しさを紛らわせたいだって。そんな見え透いた言い訳をする位なら、堂々と俺はロリコンだからと言う方がまだまし。どちらにしても、この店に来ている時点で私が娘でもアウトだな。心の中でそう思いながら、「お父さん、頑張って。」と、男の顔を見ることなく、無愛想に菫が言った時、見たことのない女の子が水色のパジャマを着て菫と反対側の男の隣に座った。

色素の薄い茶色の透き通るような髪は肩の上で短く切り揃えられている。

「ミドリです。」

彼女は男に爽やかな笑顔で挨拶した。

二時間六千円のセット料金の制限時間まであと10分と迫ってきた時、愚痴男は何気ない感じで菫の左腿に右手を置いた。菫がどうしたものかと戸惑っていると、

「おじさん、ダメだよ。それはこの店ではルール違反。」

とミドリが男の手を菫の太腿からそっと引き離してくれた。


 次の客の要望で、黒いワンピースに白いフリルのエプロンを身に付け、プリムというヒラヒラした布を頭の上に付け終わっても、菫はすぐにフロアに戻る気になれなかった。このまま帰ってしまいたいという思いが一旦頭に浮かぶと、帰りたくて仕方なくなった。

店長には高校生と嘘を付き、家の住所はもちろん、本名すら言っていない。このまま辞めてしまっても大丈夫だと思った。

帰ろうと決心し、菫がロッカーに置いている自分のTシャツを持ち上げた時、ロッカールームの扉が開く音が聞こえた。Tシャツから素早く手を放して振り返ると、ミドリが水色のパジャマのボタンをはずしながら、畳が敷かれた奥へと歩いて行くのが見えた。

畳のスペースには、折り畳みの小さなテーブルと座布団が置かれていて、壁際にあるパイプハンガーラックには色とりどりの衣装が掛けられている。

ミドリはハンガーラックから白地に紺のラインのセーラー服を探し出して抜き出すと、ハンガーラックの一番端に掛け直した。まるで自分の部屋で着替えているかのように、隠しもせず堂々と着ていたパジャマを脱いで、あっという間に下着だけの姿になった。

「あのさー。」

とセーラー服のスカートをハンガーから外しながらミドリが言った。店に来るお客のように、ミドリの身体をじっと見ていたことに気付いて、

「ごめんなさい。」

と慌てて菫は視線を逸らした。

「別に謝ってほしいわけじゃないんだ。気を付けてほしいだけ。バイトに入って間もないから仕方ないけど、このお店ではお客が守らなければならないルールがあるのは知っているよね。その一つに、お客がお店の女の子を決して触らないという決まりがあること。あんたが我慢すりゃ済むことじゃないんだ。いい気になったおやじが他のバイトにもっとエスカレートしたことをしてくることになってしまう。だから、怒らせないように、でも、きっちりと釘を刺す。」

セーラー服の胸元のリボンを結びながら、菫の前を通り過ぎる時、

「それじゃ、先に行ってるね。次もあんたと私、同じテーブルに付くからよろしく。」

と微笑むと、ミドリはフロアへ戻って行った。菫はくしゃくしゃになっているTシャツを軽く畳み直すと、ロッカーの扉を閉めて、ミドリの後を追った。


ーつづくー



 






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サラリーマン
趣味:
寝ること・食べること
自己紹介:
のんびり自分のペースで生活するのが夢です。
その為にはお金と時間が必要なんじゃないかなって思ってます。
今まではどちらの使い方もとっても雑だったなぁってしみじみ思う今日この頃です。
  
娘の貯金額今年の目標
600,000

今年
0円



昨年
600,000円

一昨年
135,000円
今ほしい物ソファ
ピアスを
開ける
勇気
ほしくてちゃんと買った物カーテン
 
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