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娘すーたんと過ごす日々の中の些細な出来事を綴って いきたいと思います。
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1・2・3の続きです。

1・2・3の小説を読まれてない方は
こちらからお読みいただければと思います。

一次にも引っ掛からなかった小説 1

一次にも引っ掛からなかった小説 2

一次にも引っ掛からなかった小説ー3



それでは3の続きをUPします!!






 終業式が近付き、短縮授業で早帰りとなった菫は、バイトの時間まで2時間程早かったが、アップスタートに向かうことにした。

お店に着いて、扉を開けようとすると、扉が開き、内側からリョウが出てきた。

「あれ、マコちゃん早いね。」

「今日から短縮授業。」

菫の正面に立つリョウの顔を直視できずに、開いた扉から店内を覗くようにして答えた。

「まだ、みんな、来てないよね。」

「そうだね。トオルが来ているだけ。」

トオルがフロアの掃除をしているのがリョウの向こう側に見えた。

「マコちゃん、ちょっと、買い出しに付き合ってもらってもいい。」

「いいよ。私も時間潰しになるし。」

菫に気付いたトオルが手を振っているのが見えて、軽く手を振り返した。

買わなければならないものが沢山あるといって、右手に持ったメモを見ながら歩いているリョウの横を歩きながら、菫は見慣れた通りがいつもと違って見えることに気付いた。

燦々と降り注ぐ太陽の下、通りをじっくりと見ることができた。店先に置かれた破れた段ボールの空箱や、電気が消えて汚れが目立つ看板が目についた。

通りは、怪しげな雰囲気を失い、全ての物が鮮やかな色彩とくっきりとした輪郭を持ってそこにあった。

呼び込みの男やサンドイッチマンも、初めて真っ直ぐ見ることができた。彼らは、お祭りが終わって疲れ切っているようにも、今から始まるお祭りに備えて体力を温存させているようにも見えた。

駅前のショッピングモールの食料品売場の果物コーナーで、りんごやイチゴ等の果物をじっくりと吟味しながらカゴに入れていくリョウの横で、菫はぐるっとフロアを見回すと、隣のお肉のコーナーで、パックのお肉を選んでいる女性と、その女性と手を繋いでいる小学生位の女の子が目に入った。

「私も小学生の頃、お母さんとよく晩御飯の買い物に行ったな。」

溜息のように、言葉がこぼれた。

「羨ましいな。そんな思い出があって。」

オリーブを手にしたリョウが菫と同じ親子を見ていた。

「小学生の時に、母親と一緒に買い物に行った思い出なんて一つもないんだ。」

手にしていたオリーブをカゴに入れながら、リョウが言った。

「リョウは男の子だから、お母さんと買い物に行くというより、お父さんとキャッチボールとかでしょ。」

「残念ながらそれもない。」

リョウはおどけたようにそう言うと視線をまた果物コーナーに戻した。

「私はもうお母さんとの新しい思い出を作ることはできないんだ。リョウのお母さんは生きているんでしょ。これから思い出を作ることができるかもしれないじゃない。」

リョウは何か考え事をしているかのように、じっと果物コーナーの一角を見たままで、何も言わなかった。

 

「今日から新しい子が入って来るんだ。ヒカルちゃんって子。初日で早い目に来る予定だから、もう着いていると思うんだけど。」

お店に着いた時、リョウが思い出したように言った。心持ち緊張しながら、ロッカールームの扉を開けて中を覗くと、見たことのない女の子が驚いたように振り向き、菫と目が合った。

その女の子は慌てた様子で、右手に持っていた白い四角い形をした物を、スカートのポケットに突っ込んだ。

「おはよう。」

と遠慮がちに声を掛けると、その女の子は、視線を反らしたまま、

「おはようございます。」

と菫の前を通り過ぎ、ロッカールームをそそくさと出て行った。

 

一日の終わりにベットの中に潜り込んでから、アップスタートのファイルを開くことが、菫の日課になっている。

―私は、自分のことだけを考えて逃げたんだ。弟のことを置き去りにして。

ただただ、遠くに逃げなくてはって思って逃げた。そして、今も逃げ続けている。でも、いつまでも逃げ続ける事はできないとわかってはいる。

私の母は優しい人だった。父親が家を捨てるまでは。私が5歳の時に父は家出した。弟はまだ1歳になったばかりの頃。多分、女が出来たんだと思う。

それから、母は少しずつ、恐ろしい人になっていった。私が小学生になった時、「母さん、先生が今度家に来るって。多分、給食費のことだと思うんだ。」と私は、その日先生から渡された手紙に書かれていたことを母に言った。母は私に背を向けたまま、テレビを見ていた。テレビの画面には、沢山のタレントが大きな口を開けて笑っている姿が映し出されていた。

ボソボソと小さい声で言ったので聞こえなかったのかと思い、もう一度大きな声で母に言った。「お母さん、先生が…。」最後まで言い終わらない内に、母が振り返った。

その瞬間、私はヒっと声をあげてしまった。テレビを見ている母も画面の中のタレントと同じように笑っていると思っていたのに、振り返った母の顔は無表情でどんな感情も読み取れなかった。

私は、もう続きを言うことなど出来なかった。押し黙っていると、母の口がうっすらと開いて、感情のない低い声が聞こえた。「給食は食べませんといいなさい。」それだけ言うと母はまた、テレビの方へと視線を戻した。

私は、先生には何も言わなかった。

そして、私は新聞配達を始めることにした。新聞配達の社長に、その月にいる給食費のお金を引いた金額をバイト代として母に渡してほしいと言った。そして、給食費として引いた分を自分に直接渡してほしいとお願いした。社長は事情を察してくれて私の願いをかなえてくれた。

しかし、それも長くは続かなかった。母が、バイトに入っている時間の割に貰えるお金が少ないと言い出したからだ。母は、近所にその新聞屋さんのことを吹聴してまわった。

社長は、私の家まで来て、母を諭そうとした。私に別にお金を渡していることを告げ、子供の事を考えるように言った。母は狂ったように、私を叩き始めた。「おかあさんが、給食費を払ってくれないようなことを外で言うんじゃないよ。私に恥をかかせる気か。給食費とか言って、何に使っているかわかったもんじゃないね。」と叫びながら。

新聞屋の社長は、母を羽交い締めにして止めようとしたが、母が大きな声で社長を痴漢呼ばわりしたので、社長は苦しそうな目で私を見た後、去って行った。

私はただ、歯をくいしばって、母の怒りがおさまるのを待った。抵抗すれば苦しみの時間は長くなるだけだと。自分が逃げ出すと、私の代わりに、弟が母の怒りの標的になるのもわかっていたから、母にされるがまま、じっと我慢した。

人生には苦しみと同じ分だけ、嬉しい事もあるんだと教えてくれた新聞屋の社長の言葉を自分に言い聞かせて。―

2つ目のファイルを開く。

―私はその日、中学の友達と遊びに行く約束をしていた。すると、母が今日は、出掛けるから友達に遊びに行くのを断るようにと言った。母が私と一緒に出掛けようとするのは、いつ位ぶりだろうか。私は母にどこへ行くのか尋ねた。すると、母は一瞬、言葉に詰まったように目線を泳がしてから、海へ行こうかと思うと行った。私は海という行き先が意外で、海へ行くの?と聞き返すと、母は少し不機嫌そうに、そうよ。と短く答えた。余り気乗りしなかったけれど、もちろん母の言うことに逆らうことは出来ないので、分かったと答えた。

朝ご飯を食べ終わって立ち上がろうとした時、私は軽いめまいを感じた。そして、なんだか眠たいと思った後、次に気がついたのは、海の中だった。目が覚めた瞬間は訳が分からなかった。息が出来なくて苦しくて無我夢中でもがいていると、呼吸が急に楽になった。海面から顔を出していることに気付いた。立ち泳ぎをしながら、360度ぐるっと見渡すと、高くそびえる防波堤が続くずっと先に、うっすらと岸が見えた。

私は、必死で泳いだ。泳ぎながら、この状態を理解した。母だ。母とあの男の仕業だ。母の新しい男はろくに働くこともせず、毎日ギャンブルに明け暮れていた。男はお金が無くなると、母に無心する。お金がないと母が言うと、男は別れを切り出した。私には、母がそんな男に貢ぎ続ける事が理解できなかったが、母は自分の子供よりもその男のことを最優先に考えていた。きっと、あの男が母に保険金目当てに私の殺害の計画を持ち掛けたのだと思った。

もし、途中で力つきることなく、岸にたどり着き助かったなら、どこか遠くに逃げようと思った。母とあの男に見つからない場所に。そして、僕は母とあの男から逃げることができた。

ただ、残してきた弟が私と同じ目に合うのではないかと心配でしょうがない。でも、警察には行けない。未成年の私は、犯罪のばれていない母とあの男の元に連れ戻されるだけだから。―

もう一つファイルを開いた。

―母は体の弱い人だった。心臓が生まれた時から悪く、薬を手放せない生活を送っていた。あの日もいつもと同じ発作だと思っていた。ただ薬を飲んでも母の苦しそうな呼吸は延々と続いた。

父が母を病院に連れて行こうとした時、父の携帯電話が鳴った。父が勤める会社からの緊急連絡。父は、母の様子を気にしながら、出掛ける用意を始めた。母は父に言った。私は大丈夫だから。父は少し心配そうな顔をしたけれども、お母さんを頼むよと私に言って家を出て行ってしまった。

私はタクシーを呼んだ。その日は、タクシーが混んでいて、到着を知らせる電話がなかなか鳴らなかった。救急車を呼ぼうと決めた時にタクシーが着いたことを知らせる電話が鳴った。私は荒い呼吸の母と一緒に病院へと向かった。その後、私と母を乗せたタクシーは事故による交通渋滞に巻き込まれ、全く動かない状態がしばらく続く中、私の肩にもたれている母の呼吸が更に激しくなった。私はタクシーの中から救急車を慌てて呼んだ。渋滞の中をゆるゆると進む救急車にイライラし続け、やっと病院に着いた時には、母の呼吸は静かになっていた。

先生が私に言った。もう少し早ければ何とかなったかもしれない。その瞬間、私は先生と父を、そして自分自身を憎んだ。先生が発した一言によって、父が家の車で病院に連れて行ってくれさえすれば、あのときの渋滞に巻き込まれずに済んだのではないかという思いを私の中で募らせた。

また、たとえ母が拒んだとはいえ、最初から救急車を呼んでいればもっと早く母を病院に連れて行くことができたのではないかと自分を責め続ける毎日が今も続いている。―

 

アップスタートのあるフロアに着いて、エレベーターから菫が降りた時、いつもなら既に制服に着替えているリョウが慌てた様子でお店から出てきて、こちらに走って来るのが見えた。

「どこへ行くの?」と菫が聞くと、

「家に帰る。」

菫が降りたエレベーターの矢印の表示が上向きから下向きに変わると、リヨウはエレベーターに乗り込んだ。菫もつられて、一度降りたエレベーターにもう一度乗り込んだ。

「家に帰るって?」

「弟から連絡がきたんだ。弟を守らなくちゃいけない。」

アップスタートのファイルの内容の一つがすぐに頭によぎった。

「帰っちゃだめ。帰ったら、どうなるかは、リョウが一番よくわかっているでしょ。警察に行こう。」

「行ったって無駄さ。事件が起きてからじゃないと、警察は本気で動かない。もし、僕に何かあった時は、僕のロッカーに入っている封筒の中身を見てほしい。」

リョウはそう言うのとほぼ同時に、一階に着いて開いたエレベーターの扉から飛び出して走り去ってしまった。菫もリョウの後を追いかけたが、すぐに見失ってしまった。

鞄の中から自分の携帯電話を取り出そうとして、昨日の晩、充電するのを忘れたため、電源が入らない事を思い出した。菫はアップスターの携帯電話を取り出すと、素早く番号を押し、携帯電話を耳にあてた。

 

リョウは、大通りに出ると、手をあげてタクシーを止めた。この時間ならまだ、渋滞に巻き込まれないだろうと思った。

携帯電話の不在着信履歴の一番上に表示されている公衆電話の着信時間を再度確認して、溜息をついた。

弟はちゃんと僕の指示に従って、母親の行動の異変を感じて連絡をしてきたのに、気付いてやることができなかった。渋滞に巻き込まれなくても、40分は掛るだろうと思いながら、2時間以上も前の着歴をもう一度見て、大きく溜息をついた。

リョウはタクシーを降りると、古びたアパートの1階の右端の扉を見た。1年以上帰っていなかったが、懐かしいという気持ちは全く起きなかった。

アパートの前の道には、車は一台も停まっていなかった。あの男はいつも駐車場に車を停めることをせず、路上駐車をして、リョウに警察が来ないか見張らせていたものだ。

何も書かれていない黄ばんだ紙だけが入った表札を見た後、クモの巣が張り、埃が表面に積もった扉をノックしても何の返事もなかった。扉の横のブザーを一応押してはみたが、相変わらず鳴ることはなかった。ノブを回して、鍵が掛っている事を確認すると、リョウは外で待たせていたタクシーに乗り込んだ。

リョウは、30分程離れた所にある防波堤の名前を運転手に告げた。バックミラーに考え込むような表情を浮かべた運転手が見えた。

「釣り人が落ちて死んでしまう事故が多くって、立ち入り禁止になった防波堤です。」とリョウが言うと、タクシーの運転手は、「ああ、男の子が一人、今も行方不明になったままの、あの防波堤ね。」と言って、アクセルを踏んだ。

リョウは、タクシーを降りて、見覚えのある景色を見た途端、自分の足が震え始めるのが分かった。1年以上も過去のことが、鮮明に脳裏に蘇ってきて、恐怖で足がすくみそうになった。

弟を助けなければと自分に言い聞かせて、防波堤を見ると、車が1台止まっているのが見えた。見覚えのある車だった。

リョウは、ゆっくりと歩きながら、大きく深呼吸すると、やめろと叫びながら走り出した。

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すーたんママ
性別:
女性
職業:
サラリーマン
趣味:
寝ること・食べること
自己紹介:
のんびり自分のペースで生活するのが夢です。
その為にはお金と時間が必要なんじゃないかなって思ってます。
今まではどちらの使い方もとっても雑だったなぁってしみじみ思う今日この頃です。
  
娘の貯金額今年の目標
600,000

今年
0円



昨年
600,000円

一昨年
135,000円
今ほしい物ソファ
ピアスを
開ける
勇気
ほしくてちゃんと買った物カーテン
 
体重増減(5月から)
6月+0.8kg
7月-1.2kg
8月+0.3kg
9月+1.0kg
10月+0.5kg
11月-0.8kg
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1月-1.8kg
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