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1・2の小説を読まれてない方は
こちらからお読みいただければと思います。
一次にも引っ掛からなかった小説 1
一次にも引っ掛からなかった小説 2
それでは2の続きをUPします!!
おかけになった電話番号は現在使われておりません、という携帯電話から流れるメッセージを聞いて、ヒカルはフンっと短く笑った。
最後の客も、ツケを支払うことなく飛んでしまった。
人生がうまくいかなくなった時に歯車が狂うというが、私の場合は、はなから狂っていたのかもしれない。どれだけ努力しても歯車を修理できないのなら、いっそのこと完全に動かなくなる程、誰かが壊してくれれば諦めもつくのにと思った。
1日で300万円もの大金を調達できる訳がない。逃げても絶対にみつけられて、連れ戻されるのだろうと、重たい足取りで歩いていると、同じ年頃の女の子が、前から歩いて来るのが見えた。
ブレザーの前ボタンを全部留め、プリーツの折り目がきっちりとついたスカートに白いソックス。中学の時に自分と同じようにいじめられていた子に似ていると思った。すれ違いざま女の子と目が合うと、ヒカルは慌てて視線を逸らした。アイラインもアイラッシュもしていない、自分に向けられた真っ直ぐな瞳を直視できなかった。
ヒカルが彼女を観察して色々と思ったように彼女も自分を見て感じたであろうことを考えた。憐みだけは感じていないことを願った。
ヒカルは見慣れた薄汚れたビルの階段を上がる前に、壁に貼られた紙の前に立ち止まり、溜息をついた。この求人の紙に気付かなければ、今とは違う人生を歩めたのだろうかと思ったが、どの道、似たような状態になっていたのだろうと思った。
きっと、狂っている歯車は私というパーツを外さない限り正常には動かない。
店に着くと、ヘブンの店長が見たことのない男と話をしていた。「おはようございます。」とヒカルが言うと、「お前が言っていたのは、この子か。」と店長の横に立つ小柄で細身の初老の男は微笑んだが、ヒカルを見る目は鋭く笑っていなかった。
「はい、そうです。」とどんな時も横暴な態度をとる店長が、媚びを売るように笑って答えた。
「君、私のお願い事を聞いてくれないかね。悪い話ではないと思うんだが。」と初老の男が言った。
提案しているように聞こえるが、選択の余地など自分にないこと位、ヒカルは分かっていた。
ヒカルは歯車の回転が加速しだしたと思った。噛み合わないままガチャガチャと音を立ててグルグル回る歯車にヒカルは挟まれて、腕や足がちぎれ、引きちぎられた頭がコロコロと地面を転がって行く様子が頭に浮かんだ。
「何、誰かの忘れ物?」
と菫はロッカーの中の鞄を取り出し、扉を閉じながら、ミドリが手に持っている携帯電話を見た。
「マコのだよ。」
ミドリが微笑みながら、携帯電話を菫に差し出す。
「明らかに私の携帯と違うし。」
絶対自分では選ばないゴールド色の携帯電話を手に取りながら、どういつもりなのかとミドリの顔をじっと見た。
「バイトを始めて三か月経つと、店から渡されるんだよ。シフトの希望とか、急な休みとかの連絡用。あと、辛い事や腹が立った事を店長にメールで送るとね、その内容を個人情報が漏れないよう店長が添削した後、アップスタートのサーバーに載せるようになっているんだ。内容が本当かウソか書いた本人にしかわからないけどね。それでいいんだって店長が言っていた。自分の内にある苦しみをどんな形ででも吐き出すことによって少しは楽になるはずだって。」
とミドリが微笑んだ。
「それから、明日用事ある?なかったら、朝9時にお店に集合ね。」
とミドリが菫に聞いた。
「明日って、お店はお休みでしょ。」
「ま、とりあえず用事がなかったら来て。」
とミドリが言った。
夜、自分の部屋で、月に一度変更になるらしいパスワードを携帯電話の画面に入力して、ミドリから聞いたアップスタートのサーバーを開くと、いくつかのファイルがあった。一番上に表示されているファイルを開く。
―私は自分の本当の年齢を知らない。17歳と親が言うから17歳ということにしている。
私の親が私の出生届けを出さなかったので、私には戸籍がない。
そして、小学校も中学校にも通っていない。私が一度、自分の母親になぜ、出生届けを出さなかったのか問いただした時、母親は面倒くさかったからと面倒くさそうに答えた。
私は、その時から、親に期待をするのをやめた。
今は戸籍を得るために、親に頼らず、自分で家庭裁判所に就籍許可申請をしているところ。
私は実際の暴力を受けることはなかったけど、無関心という暴力を受けた。―
2つ目のファイルを開く。
―私の母親はAV女優。若い時はかなりの人気があったらしいけれど、さすがに30代後半になると、人気が下がり、DVDの売れ行きも悪くなってきた。そこで、私の母が思いついた事は、娘である私もAVに出演させることだった。
母はAVの仕事に誇りを持っているから、私にそれを強要することに、罪悪感はないのだろう。私が嫌だと言うと、母は悲しそうな顔をしながら、母親の仕事を軽蔑しているのかと質問する。軽蔑しているわけではない。母親がAVに出演して稼いだお金で、私はご飯を食べ、洋服を買ってもらい、高校へ行き、人並みの生活を送る事ができた。だけど、私には私の人生がある。
母は落ち目になったことが許せずに私を共演させようとするのか、それともお金のためなのか。多分、どっちもなんだと思う。
今、バイトしながら、母が満足する位にお金を稼げる職業に就くため、大学に入ろうと受験勉強をしている。弁護士になろうと思う。いや、絶対になる。―
今まで映画やドラマでしか見たことのない世界がアップスタートのサーバーの中にあった。
菫は寝坊して、9時半頃に店に着いた。
フロアでは、バイトのメンバーが私服のままソファに座っていた。皆、鉛筆を持ち、テーブルにノートを広げている。皆の視線の先を見ると、見たことのない女性がホワイトボードの前で話をしている。
ミドリが手招きをしていることに気付いて、菫はミドリの横に座った。「これ、何。」と小声で聞くと、ミドリは勉強とノートの端に書いた。
菫は事情がよく飲み込めないまま周りを見た。皆、真剣な面持ちで、学校のように寝たり、しゃべったり、漫画を読んだりしている子は一人もいない。他の子と同じように前に立つ女性の話に耳を傾けると、菫がちょうど学校で習っている二次方程式について女性は説明していた。
授業はあっという間に終わってしまい、学校では理解できなかったことがすんなりと頭に入ってきたことに菫は驚いた。真剣に勉強するのは久しぶりだと思った。
「面白いでしょ。」
ノートと筆箱を鞄にしまいながら、ミドリが言った。
「土日はここで色々なことを教えてもらえるんだ。勉強はもちろん、ネイルアート、ヘアメイク、プログラミング、投資、他にもいろいろとね。今日はこの後、ネイルアート、料理、プログラミングの授業があると思うよ。」
そう言うと、ミドリはホワイトボードの横のテーブルに置いていた箱を手に取り、戻ってきた。箱を開けると、マニキュアや、ブラシ、コットンなどが入っていて、透明、ピンク、ブルー色とりどりのラインストーンがキラキラと輝いていた。
「一通り全部受けてみて、興味を持った授業を今後も受け続けていったらいいと思う。私は図書館に行ってくるね。」
ミドリは鞄を持って立ち上がって、席を探していたヨウコに席を譲った。菫がどうしていいかまごついていると、ヨウコが箱の中の物を手に取り、「先に私からするね。これはネイルファイルというの。」と言った。
数学の時とは異なる女性がテーブルを回り、皆の様子を見ている。「あの人すごいんだよ。ネイリストの世界大会で2連覇していて、ネイルサロンを全国展開しているんだ。一緒に働いたことはないけど、アップスタートのOBなんだよ。ここで教えてくれる講師は皆、お店で働いていたことがある人で、無償で講師をしてくれているんだ。だから、私達も教わったことをちゃんと身に付けて、将来それで稼いで、ここで働く子達の講師をすることで恩返しをしていくって感じ。私、勉強は苦手だけど、美容関係だと勉強しようって思えるんだよね。ネイルアートやヘアメイクとか美容に関するものは全部身に付けて、トータル的な美のプロフェッショナルを目指すつもり。」
ヨウコは菫の右手を取ると、慣れた手つきで、親指の爪をシュッシュッと磨き始めた。
ネイルの授業が終わって、携帯電話の画面を見ると13時になっていた。疲れたけど、楽しいと菫は思った。
キッチンの方からいい香りがしてきて、お腹が鳴った。ネイルアートと同じ時間に料理の授業があったようだ。
プログラミングの授業は15時からだったので、一旦、外にご飯を食べに行こうと席を立った。
キッチンから料理を盛った大皿を手に、ボーイのリョウやトオルが出てきたかと思うとフロアのテーブルに料理を並べ出した。
ペペロンチーノやペスカトーレ、パエリア、マルゲリータ、どれも美味しそうで菫は次々と並べられる料理に見入っていた。
「美味しそう。」と、ヨウコがテーブルに置かれた取り皿を手に取り、マルゲリータを一切れ取って食べ始めた。
「え、食べていいの。」と菫がヨウコに聞くと、「いつも全員で食べるんだよ。」と言って、取り皿を菫に手渡してくれた。
ペスカトーレが食べたいと思ったが、菫のテーブルに置かれたペスカトーレは既に無くなってしまっていた。諦めて一番手前にあったマルゲリータを取ろうとした時、ペスカトーレが盛られたお皿が菫の目の前に出された。
「僕、ペスカトーレの担当だったんだ。」と、いつの間にか菫の横に立っていたリョウが、お皿を手に微笑んだ。「あっちで座って食べる?」とリョウがペスカトーレのお皿を持ったまま、一番奥のテーブルへと歩いて行った。
ヨウコを見ると、ミツコと楽しそうに話をしていた。菫は断る理由もなく、リョウについて行った。
「美味しい。」菫は一口食べた後、思わず大きい声を出してしまった。今まで食べた中で本当に一番美味しいと思った。リョウを見ると、「ありがとう。」と顔をほころばせた。
「将来自分の店を持ちたいんだ。和食、フレンチ、イタリアン、中華、何でも超一流の美味しい店があったらすごいと思わない。」リョウは遠い目をして言った。
「ここにいると何にでもなれそうな気がするんだ。」
リョウはそう言った後、フロアを見渡しながら、自分の言葉を確認するかのように頷いた。
「何、いつまで二人で食べてんだよ。デザート出すの手伝えよ。」
声のする方を見ると、キッチンの入口付近に立つトオルが、胸元で両手をハート型にして笑っているのが見えた。
リョウは親指を下にした拳をトオルに向けた後、菫に微笑み掛けると、食べ終わったお皿を持って、キッチンへと歩いて行った。
プログラミングの授業が終わり、菫がパソコンを元の場所に戻し終わった時、リョウがごみ袋を両手に持って、店の扉を開けようとしているのが見えた。菫は、早足で出口に駆け寄り、扉を開けて手で押さえると、「ありがとう。」とリョウが微笑んだ。
菫はリョウの顔を真っ直ぐ見ることができなくて、「うん。」と言いながらうつむいた。
「マコちゃん、JRだよね。僕もなんだ。」
とリョウがまだ扉を押さえたままでいる菫に言った。
「うん。」
菫は下を向いたまま、赤くなっているであろう耳を隠すために耳にかけていた髪を下ろした。
リョウと一緒に帰るのも、いつもはバイトに入る時間に駅に向かって歩くのも、土曜日に通りを歩くのも初めての事だった。
営業しているお店は少なく、ほとんどの店がシャッターを閉め、いつもは賑やかな音楽を延々と流しているお店も静まり返っていた。
陽が落ちた通りは、全ての物が群青色に包まれて輪郭がぼやけ、怪しげな雰囲気を漂わせていた。
いつもと異なる怖さを感じ、菫は真っ直ぐ前を向いて歩いた。
「どうしたの?」
とリョウが菫に尋ねた。
「なんだか怖くない?」
と菫はリョウに聞き返した。
「いつもこの通りを歩くのが恐ろしいんだけど、静まり返った通りも不気味ですごく怖い。」
菫がそう言ってリョウを見た。
「確かにね。人の温もりを感じられないのって怖いし、寂しいよね。中学生の頃、試験の前とかさ、深夜に勉強していると、突然寂しくなったりすることがあったな。この世界でたった一人ぼっち取り残された感じというか。そういう時、ラジオをつけるとね、ホッとするんだ。顔は見えないけど、人の温度を感じられてね。ラジオの向こう側に沢山の人がいるって、一人じゃないって思えるんだ。」
リョウはそう言うと微笑んだ。菫は今度ラジオを買ってみようと思った。
「でもさ、自分を食べようとする鬼と過ごすのだったら、一人の方がよくない?一緒にいると食べられちゃうんだよ。」
と菫がふざけた調子で言うと、
「鬼は人間じゃないし。」
とリョウは笑った後、急に真面目な顔になった。
「鬼は最初から鬼だったのかな。物語のように、魔法が解けて優しい人間に戻るってことはないのかな。」
と少し寂しそうに笑った。
ーつづくー
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その為にはお金と時間が必要なんじゃないかなって思ってます。
今まではどちらの使い方もとっても雑だったなぁってしみじみ思う今日この頃です。
娘の貯金額 | 今年の目標 600,000 今年 0円 昨年 600,000円 一昨年 135,000円 |
今ほしい物 | ソファ |
ピアスを 開ける 勇気 | |
ほしくてちゃんと買った物 | カーテン |
月 | 体重増減(5月から) |
6月 | +0.8kg |
7月 | -1.2kg |
8月 | +0.3kg |
9月 | +1.0kg |
10月 | +0.5kg |
11月 | -0.8kg |
12月 | -1.9kg |
1月 | -1.8kg |
2月 | 0kg |
3月 | kg |
4月 | kg |