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前回の小説を読まれてない方は
こちらからお読みいただければと思います。
一次にも引っ掛からなかった小説 1
それでは1の続きをUPします!!
お金が欲しい訳でも、友達が欲しい訳でもなく、もちろんバイトがしたい訳でもない。全ての記憶を失っても構わないから、体の中に充満しているもやもやとした感情を全部洗い流したい。
戻すことのできない過去。堂々巡りの後悔。
今の自分をぶち壊してみたい衝動を抑えることができなくて、菫は学校帰りに、今まで一度も訪れたことのない歓楽街へと足を踏み入れるようになった。
歓楽街へ行くことは、菫にとって、もはや苦痛でしかなかったが、だからこそ、行くことをやめなかった
街をびくつきながら歩くだけで何かできる訳でもなく、目的もなく慣れない街を歩くことに限界を感じた矢先、事の成り行きで求人を出していた店の向いのビルのアップスタートという店でバイトをする羽目になってしまったが、キャバクラで働く気など更々なかった。
歓楽街を歩き回るより、じっとして、求人広告を見ている方がまだましだと思っていただけ。
バイトを始めてみても、自分自身の心は何一つ変わらなかった。いかにもやばそうなあの貼り紙のキャバクラでバイトをしたら、何か変わるのだろうかと思うが、バイト先の店長が耳元でささやいた、死にたいのかという言葉は底知れない恐怖を菫の心の中に植え付けていた。
何だかんだ言っても、まだ自分のことが大事なのだろうと菫は思う。
週3回、中学校が終わると、菫はバイト先へ向かう。制服から私服へ着替えるために、トイレを目指して大型ショッピングモールの中を歩く。ショッピングモール全体に流れる陽気な音楽、笑い声を上げながら走り回る子供と追いかける母親、ペチャクチャと話し続ける女子高生、全てが癇に障る。
自分がこんな風になってしまうなんて少し前までは思いもしなかった。親友と思っていた友達と一緒にいても、早く一人になりたいと思ってしまう。友達が私に気を使ってしんみりしても、わざと何もなかったように明るく話しかけてきても、放っておいてという気持ちになる。以前は他愛もない話で友達と盛り上がることが何よりも楽しかったのに。
穏やかな幸せに包まれているという事に気付けなかったあの頃には、もう戻ることができないのだと思った。
あの芸能人とあのミュージシャンが付き合っているだの、何の足しにもならないような話で盛り上がっているロッカールームで、その輪に入ることなく、ミドリは何やら難しげな本に集中している。
ミドリに話し掛ける機会を探りながら、菫は何をする訳でもなくロッカールームの片隅にいて、もとは白だったと思われる黄ばんだ壁紙に書かれたイタズラ書きをぼんやり眺めていた。
誰かが菫の横に近づいてくる気配を感じたが、気付かないふりをした。
「こっちで一緒に話をしない?」
声のした方をチラッと見ると、ミツコと目が合った。
「芸能界とか興味ないんで。」
と答えると、ミツコは一瞬悲しそうに見える表情を浮かべた後、何も言わず、休憩時間が終わったのかフロアへと戻って行った。
バイトの時間中、店内の様子をぼんやりと見ていると、お客と女の子があっちでもこっちでも楽しそうに会話をしている。
横に座る30代らしき男に視線を戻すと、男は愛想笑いを浮かべて、
「マコちゃんの好きな食べ物は何?」
とまた、質問をしてきた。横についてから、男はずっと、どうでもいいような質問をし続けている。
「そんなこと知ってどうするの?」
と向いのテーブルでバカみたいに笑っている女の子の名前は何だったかと考えながら、隣の男を見ずに菫は答えた。
男からは何の返事も返ってこなかった。男の方をなんとはなしに見ると、男は下を向いていた。
表情から感情を読み取る事はできなかったが、テーブルに置いている手が小刻みに震えている。菫がただならぬ雰囲気を感じ取った時には、男は立ち上がり、菫に向かってどなり始めていた。
「お前は何様なんだ。俺はお金を払ってこの店に来ているんだ。人を馬鹿にするのもいい加減にしろ。」
菫がどうしていいか分からず、茫然としていると、ボーイのリョウがミツコを連れて、菫と怒鳴っている男の前に現れた。リョウは、怒鳴っている男に頭を深々と下げた。隣にいるミツコも頭を下げた後、菫と反対側の男の横に座った。
ミツコは、男の空になってしまっているグラスに氷を入れて、リョウが持ってきた高級そうなボトルからウイスキーらしきものを注ぎ入れた。
顔を真っ赤にしていた男はリョウの丁重な対応で怒りも徐々にトーンダウンして落ち着き、ソファに座り直すと、優しく微笑むミツコとの問いかけに、ぶっきら棒ではあるが答え始めた。
菫はリョウに促され、ロッカールームへ入り、奥の畳の間に腰を掛けた。リョウに怒られると身構えていたが、「後で呼びに来るから。それまで休憩していて。」と、リョウは優しく微笑んで、ロッカールームを出て行こうとした。
「私、バイト辞めようかな。向いてないし。知らないおやじと楽しくもないのに、ニコニコしゃべらなきゃならないなんて、私には無理。」
と菫が誰に言うわけでもなくつぶやくと、扉から出ていこうとしていたリョウが背を向けたまま、立ち止まった。
「辞められるんだったら、辞めていいと思うよ。僕を含めてここでバイトしている子達は、辞められないんだ。いや、辞められないんじゃなくて、辞めたくないと思っている。だって、ここは、僕らにすれば、セーフティーゾーンだから。ここを出てしまったら、地獄があるだけ。辞めるにしても、今日は人数がギリギリだから、シフト通りバイトしてね。さっきのお客が帰ったら呼びに来るから。」
リョウは振り返ると、さっきとは異なる寂しげな笑顔を菫に向けた後、ロッカールームから出て行った。
バイトが終わってロッカールームで着替えていると、
「あんた、目障りなのよ。」
いつもミツコにぴったりくっついているヨウコが菫を睨み付けた。
菫は無言でロッカーの扉を閉め、帰ろうとすると、
「ちょっと、待ちなさいよ。」
とヨウコに肩を掴まれた。
無言でヨウコを見ると、
「あんた、私らの事、馬鹿にしているでしょ。
自分はここでバイトしている子とは違うと思っているんでしょ。こんなところで楽しそうにバカな話しをしているあんた達と私は違うんだって。」
菫は下を向いたまま返事をしなかった。
「ミドリもそう思うでしょ。」
ヨウコがミドリに向かって言うと、何も気付いていない素振りで着替え続けていたミドリが静かな声で言った。
「とりあえず、先にミツコとリョウにお礼を言うべきだと思う。今日、二人に助けてもらったんでしょ。あんたはここでバイトしているのは、店長に連れて来られたからって思っているかもしれないけど、最終的にバイトをしようと決めたのは自分だよね。自分の意志でバイトをしているんだよね。それなら、ちゃんと責任を果たすべきだと思う。あんたのバイトの態度を見ていたら、まるっきり子供だなって、本当今まで何一つ苦労してきてないんだろなって思う。いつもつまんなそうな顔をしているけど、あんた、環境だけを変えてみても、不満は消えないよ。」
最近、相手が誰であろうと、言われた言葉がザラザラとした耳障りな雑音でしかなかった。だが、そのミドリの言葉はすんなりと菫の心の中に入ってきた。
「あなたにとったら、単なるバイトなのかもしれないし、常連さんが増えても減ってもどちらでも構わないんだろうけど、私にとっては、ここは本当に大切な場所なの。ここがなくなったら、私は生きていけない。ここは、私の生きる望みをキープさせてくれる場所なの。だから、同じ気持ちになってとは言わないけど、この店に不利益をもたらすことだけはしないでほしい。あなたももう少し長く勤めたら、私の言っていることが少しは分かると思う。だから、それが分かるまでバイトを続けてほしいって思う。」
ミツコはそう言って微笑んだ。
「ごめんなさい。」
菫は素直な気持ちで謝った。
「何なのその歌。聞いたことないけど。」
とミドリに聞かれて、また、無意識で鼻歌を歌っていたことに気付いた。
「我が家オリジナルの子守唄。」
菫は、図書館の机の上に山積みにした週刊誌を手に取った。
「オリジナル?」
ミドリは菫には一行たりとも理解できそうにない分厚い医学書に目を向けたまま聞いた。
「いつ覚えたのか覚えてないんだ。お母さんに聞いたら、我が家オリジナルの子守歌だって言ってた。」
「マコはとっても大切に育てられたんだろうね。」
「お母さんにはね。お父さんは仕事バカだから、一緒に遊んでもらった記憶は皆無。お父さんは家庭を持ってはいけないタイプなんだと思う。」
ゴホンと咳払いが聞こえた。隣の机を見ると、高校生くらいの男の子が人差し指を口に当てて、声を出さずに、しーという口の形を作っていた。咄嗟に、すみませんと菫は大きな声を上げてしまい、今度はミドリが眉間に皺を寄せて、人差し指を口に当てた。二人は顔を見合わせ、声を出さずに笑った。
ミドリはバイト以外の時間はほぼ図書館で勉強している。将来、お医者さんを目指しているらしい。菫はといえば、勉強は宿題を時々やる程度で、将来の夢なんて何にも思いつかないし、やりたいこともない。ミドリに一度そんな風に告げると、一言、贅沢病だなと言った。
ミドリの図書館通いに付き合うまでは一度も図書館を利用したことがなかったけど、案外、図書館は素敵な場所だと思う。私語を控えなければならないという事は、今の私にとって素晴らしいこと。余計なおしゃべりをしなくていいと思うと、心が穏やかなになる。 ミドリとなら、もっともっといろんな話をしたいけれど。
菫は、手にした週刊誌のページをめくりながら、医学書から視線をはずすことのないミドリを見た。
菫は昨日、ロッカーに携帯電話を忘れた事に気付いて、学校が終わるとすぐに、バイト先へと急いだ。
昨日、帰ろうとした時、バイトに入っている日なのに、明日は来なくていいからと店長に言われていたが、携帯電話がないとどうにも不安で仕方がなかった。
バイトが休みになる理由を店長に尋ねた時、大人の事情というもんだなと、欠伸をしながら答えていた位だから、携帯電話を取りにお店へ行っても問題ないだろうと思った。だが、駅に着いた時、改札口の横に設置されている公衆電話が目に入り、一応、電話をお店に入れておこうと思い直した。
公衆電話の受話器を持ち上げてから、お店の電話番号を携帯電話にしか登録していないことに気付いた。受話器を戻しながら、携帯電話がなくても電話できるところがあるか考えてみた。
掛けることのなくなった自分の家と父の携帯番号、掛けても繋がることのない母の携帯番号が頭に浮かんだ。
たばことお酒が入り混じった強烈なにおいで目眩が起きそうになるエレベーターに乗り、お店がある3階に着いたとたん、エレベーターの扉のガラス越しに、5、6人の男が今にも店に入ろうとしているのが見えた。すぐに警察だという事に気付いた。男達は身に覚えのある独特な雰囲気を身に纏っていた。
慌ててエレベーターの扉を閉め、震える手で1階のボタンを押すとエレベーターは苛々する位ゆっくりと下降し始めた。1階に着いてエレベーターの扉が開くと、ミドリが目の前に立っていた。
「ねえ、今、警察が来ているよ。」
エレベーターを降りながら、菫がミドリに言うと、
「知っているよ。」
とミドリが平然と言った。
「定期的に来るんだ。中学生を働かせてないか、売春とか法に触れる事をしていないか、確認しに来るんだよ。でも、大丈夫。ちゃんと、ガサ入れの情報が入ってくるようになっているんだ。本当かどうか分からないけど、現役の警察官から情報が入ってくるらしいよ。マコは昨日、明日来なくていいよって言われたでしょ。」
「え?どういうこと?」
ミドリはフフっと笑うと
「マコが中学生ってことは、店長分かっているよ。」
ミドリは落ち着いた様子でエレベーターの前で立ち止まったまま動こうとしない。
「そっか。ミドリは今からバイト?」
今にも警察がやってきそうで、つい早口になってしまう。
「ううん。今日は私もバイト入ってないよ。私も中学生。中3。」
と言って、ミドリは微笑んだ。
「私と同じ歳なんだ。そしたら、ミドリも今日ここに来たらダメなんじゃないの?」
ガタンと音がして動き始めたエレベーターが何階に止まるのかを気にしながら、
「とりあえず、ショッピングモールの屋上に行こうよ。」
とミドリの返事を待たずに、菫は早足で歩き始めた。
ミドリに初めて連れてきてもらって以来、菫にとってもお気に入りの場所となった駅に直結しているショッピングモールの屋上。いつ行ってもほとんど無人に近い状態なのに、花壇にある花はいつも美しく整えられ、設置されている木製のテーブルも椅子も汚れがこびりついていることがない。
「私はあの店長の娘。娘と言っても血は繋がってないけどね。まあ、養女というわけ。だからさ、私が友達と一緒に父に会いに来たと言えば問題ないでしょ。マコ、昨日、携帯忘れたでしょ。家の電話番号知らないし、絶対今日お店に取りに来ると思って来たんだ。」
携帯電話を菫に渡しながらミドリは微笑んだ。
菫は屋上のフェンスにもたれ掛り、ぼんやりと地上のごちょごちょと蠢く人間や、列をなして走る車を眺めた。空を見上げると、飛行機が真上を飛んでいくのが見えた。
「いつ死んでも構わないって時々思うんだ。自殺とかは絶対無理だけど、なんかの拍子で、事故とかでさ、死んでしまっても、何にも悔しくないというか。」
と菫がつぶやくように言った。
「やっぱり、マコは平和ボケしているんだよ。」
「そうかな。」
と菫が笑いながら、横に立つミドリを見ると、ミドリの横顔は、感情のない人形のように無表情で、どういう思いでミドリがそう言ったのかわからなかった。
ーつづくー
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その為にはお金と時間が必要なんじゃないかなって思ってます。
今まではどちらの使い方もとっても雑だったなぁってしみじみ思う今日この頃です。
娘の貯金額 | 今年の目標 600,000 今年 0円 昨年 600,000円 一昨年 135,000円 |
今ほしい物 | ソファ |
ピアスを 開ける 勇気 | |
ほしくてちゃんと買った物 | カーテン |
月 | 体重増減(5月から) |
6月 | +0.8kg |
7月 | -1.2kg |
8月 | +0.3kg |
9月 | +1.0kg |
10月 | +0.5kg |
11月 | -0.8kg |
12月 | -1.9kg |
1月 | -1.8kg |
2月 | 0kg |
3月 | kg |
4月 | kg |